世界に愛された哲学、ルーミーの魂に触れる旅へ― コンヤで体験する「シェビィ・アルース(Şeb-i Arus)儀式」の神秘
アナトリアの大地は、古代から数えきれない文明が行き交ってきた、トルコの“心臓部”ともいえるエリアです。宗教、伝統、哲学、文化が幾層にも重なり合うこの地域は、現在もなお大きな影響力を持ち、世界各国から訪れる旅行者の旅の選択を形づくっています。
その象徴的な存在が、スーフィーの思想家として世界的に知られるメヴラーナ・ジャラレッディン・ルーミー(Mevlâna Celaleddin Rumî)です。毎年、ルーミーが“神との再会の日”と呼んだ命日「シェビィ・アルース(Şeb-i Arus)」には、アナトリアの精神的な中心地コンヤに、世界各地から数万人規模の人々が集います。静寂の中で響く神秘的な音楽、ゆっくりと円を描きながら舞うセマー(旋舞)―。この追悼行事は、トルコの伝統文化の中でも、特に心に迫る体験のひとつです。
ルーミーの精神を巡る旅 ― コンヤで体感する「シェビィ・アルース(Şeb-i Arus)儀式」
世界中に寛容な愛の道を示したジェラーレッディン・ルーミーを追悼し、毎年12月7日から17日にかけて開催される「シェビィ・アルース(Şeb-i Arus)儀式」は、今年没後752回目を数え「Time for Peace(平和のための時)」をテーマとして開催されます。期間中、2008年にユネスコ無形文化遺産に登録され、見る人に神聖さと美しさで深い感動を与えるメヴレヴィー教団のセマー(旋舞)儀式を鑑賞することができます。10日間にわたるこの祭典の間、悠久の歴史とセルジューク様式の壮麗な建築、そして豊かな郷土料理で知られるコンヤの街は、ルーミーの精神性を映し出す文化都市へと姿を変えます。期間中は、国際会議、詩の朗読、セマー公演、展示、演劇、写真コンテストなど、多彩なプログラムが市内各地で展開され、トルコ国内外から多くの人々が訪れます。
「来たれ、誰であっても」――世界が愛するルーミーの哲学
イスラム教(スーフィズム)神秘主義者であり、人文主義者、詩人として世界に知られるメヴラーナ・ジャラレッディン・ルーミーは、その有名な言葉「来たれ、誰であっても(Come, whoever you are)」で広く知られています。
彼の命日である「シェビィ・アルース(Şeb-i Arus)儀式」は、“結婚の夜”とも表現され、ルーミー自身が「神と一体となる喜びの日」と捉えていました。そのため、この夜は悲しみではなく、祝福と精神的な喜びに満ちた時間として長く受け継がれています。
今なお息づくルーミーの叡智
1207年、現在のアフガニスタンにあたるバルフで生まれたルーミーは、学者の家系に育ち、後にセルジューク朝の都コンヤへ移り住みました。1244年には、運命的な人物シャムス・タブリーズィと出会い、その交流が彼の精神的探求に大きな影響を与えました。しかし、シャムスの失踪によってこの友情は突然に終わりを告げます。その後も、愛と献身、精神的成長を説くルーミーの教えは国境を越えて広まり続け、彼がペルシア語で記した全6巻・約25,700対句の大作『マスナヴィ』は、今なお世界中で読み継がれる霊性文学の金字塔となっています。1273年、66歳でこの世を去ったルーミーは、長く待ち望んだ“再会”を果たしたとされ、その精神的遺産は現在も世界中の人々にインスピレーションを与え続けています。毎年、彼の教えに魅了された多くの旅行者がコンヤを訪れることも、その証と言えるでしょう。
コンヤで体験したいこと:見る・触れる・味わう
精神的な魅力に加え、コンヤは「歴史」「文化」「体験」にも恵まれた街です。滞在中にぜひおすすめの体験スポットや文化を、わかりやすく3つに分けてご紹介します。
見る ― ルーミーの世界と歴史の息づく街を巡る
コンヤを訪れたら、まずはルーミーの精神世界に触れられる「メヴラーナ博物館」へ。手書きの原稿や宗教的工芸品など、詩人・神秘思想家として世界的に愛される彼の人生と思想を物語る品々が展示され、訪れる人々を静かな感動へと誘います。セルジューク朝時代の学問所を利用した「カラタイ・メドレセ(現:タイル博物館)」では、館内を埋め尽くす精緻なタイル装飾が圧巻です。そして、市街地から少し足を延ばせば、ユネスコ世界遺産「チャタルホユック新石器遺跡」が広がり、世界最古級の定住集落
として人類史の原点に触れられます。初期キリスト教の面影を残す「シッレ」の静かな街並みも、コンヤの歴史を感じる魅力的な散策スポットです。
触れる ― 自然が生み出す静寂と癒しを体感する
都会の喧騒から離れて自然に癒されたいなら、トルコで2番目に大きな塩湖「トゥズ湖」へ足を運んでみてください。雪のように白い湖面と澄み渡る空が溶け合い、時間がゆっくりと流れるような幻想的な風景が広がります。鏡のように輝く湖面に立てば、自分が空と地のあいだに浮かんでいるかのような不思議な感覚に包まれるはず。多様な鳥類が集まることからバードウォッチングの名所としても知られ、自然の生命力を感じられる特別なひとときを過ごせます。
味わう ― 伝統が息づくコンヤの食文化を味わう
細長い薄焼き生地に挽肉や野菜をのせ、石窯で香ばしく焼き上げる「エトリ・エキメッキ」は、軽やかさと満足感を兼ね備えたローカルフードとして人気。さらに、コンヤの冬にぴったりの郷土料理「ティリット」は、香ばしいパンの上に柔らかく煮込んだ肉を重ね、ガーリックヨーグルトと玉ねぎ、パセリを合わせた心温まる一皿です。どちらも長い歴史と家庭の味が息づく、コンヤならではの “旅のごちそう”。訪れる人々の心を満たす、豊かな食文化をぜひ堪能してください。
